寒冷地のドライガーデンにおすすめ植物|【シュロ】の育て方をプロの庭師が伝授します
直立したまっすぐに伸びる幹と、扇状の円形に広がる葉が特徴的なシュロ。
ヤシ科のなかでも耐寒性が強く、西日本~北日本の広い範囲で育てられる植物なので、ドライガーデンにも適しています。
古くから日本に生息するシュロは、実は身近な日用品の原材料としても使われている植物なんです。
シュロの特徴や育て方のコツなどを紹介するので、参考にしてみてくださいね。
シュロの基本情報
科名 ヤシ科
属名 シュロ属
学名 Trachycarpus fortunei
英名 Windmill palm、Chusan palm
和名 棕櫚
別名 ワジュロ
原産地 日本九州南部
樹高 約3~10m前後
区分 常緑高木
耐寒性 強い
耐暑性 強い
開花期 5月~6月頃
花色 オスの株は緑色 メスの株は黄色
果実期11~12月頃
果実色 黒色
用途 ドライガーデン、カルフォルニアガーデン、、街路樹、観葉植物など
シュロの特徴
成長が遅い「シュロ」は、1m育つのに約30年かかるといわれています。生育は遅いものの、寿命は100年以上にもなる丈夫で育てやすい植物です。
中国の亜熱帯地域から、平安時代に持ち込まれたシュロは、九州南部で繁殖していきました。
シュロには、「ワジュロ」と「トウジュロ」、そしてその2つの交雑種の「アイジュロ」があります。
公園などで見かけるシュロは、「ノラジュロ」と呼ばれ、鳥たちが種子を運び、繁殖したと考えられているそうですよ。
葉の形が扇状の円形に広がる特徴あるシュロ属。ワジュロに比べると、トウジュロの葉は垂れずにバランスがよいため、観賞用や庭木として人気があるのだとか。
南国の雰囲気をまとう「シュロ」ですが、耐寒性は強く、東北や北海道でも育てられています。「憧れのドライガーデンをつくりたい」と考えていた、寒冷地にお住まいの方にはおすすめの植物ですよ。
「シュロ」の幹には、無数の繊維が絡まりフサフサとした状態。たわしやほうきの原材料、またシュロ縄など、この繊維を利用してつくられているものが多くあります。
古くから日本に根付いていた「シュロ」は、庭木としてだけではなく、私たちの身の回りの生活に密着し、便利な生活道具としても活躍していたことがうかがえますね。
シュロの育て方
丈夫で手間のかからない「シュロ」ですが、育て方を間違えると枯れてしまうこともあります。育て方のコツを紹介するので、参考にしてみてくださいね。
日当たり・管理場所
日陰でも育つシュロは、適度な日当たりを確保してあげれば充分に育つ植物です。
「ヤシ科の植物といえば、太陽が大好き」というイメージがありますが、中国の亜熱帯地域から持ち込まれた「シュロ」は、日陰~やや明るめの日向が適しています。
ある程度に成長した「シュロ」は、日向で育てても問題はありませんが、苗が幼いうちは日陰で育てるのがおすすめです。
また、耐寒性のある「シュロ」は屋外でも枯れることなく育つので、ドライガーデンのアクセントとしても楽しめる植物です。
ただし、1mに満たない幼木は、寒さに順応できないこともあるので、冬は屋内で管理するのがベスト。
寒冷地でも育ち手間のかからない植物ですが、幼木には気を配り、大切に育てるのがよいでしょう。
水やり
「シュロ」の水やりで気をつけたいのは、過湿による根腐れです。
とはいうものの、乾燥の続く真夏や成長期の水切れはNG。土の表面を確認し、たっぷりと水をあたえましょう。
鉢植えの場合、受け皿に水を溜めたままにすると、根腐れをおこしやすく、病害虫の原因にもなるので要注意です。
地植えにした「シュロ」への水やりは、ほとんど必要ありませんが、これも同様に日当たりが悪く水はけの悪い場所では、根腐れをおこしてしまいます。水はけが悪いと感じるときには、土壌改良も考えてみましょう。
肥料
丈夫な「シュロ」は、年に一度の肥料で充分でしょう。鳥が運んだ種子から、自生するほどの生命力を持っています。
時間を掛けてゆっくりと成長する「シュロ」。2~3月に肥料を施し、成長を促しましょう。
まずは幹のまわりに軽く溝を堀り、堆肥鶏糞や腐葉土、緩効性固形肥料などをまいてください。
成長速度を早めたいからといって、肥料をあたえすぎると逆効果です。焦らずじっくりと成長を見守ってあげましょうね。
植え付け・植え替え
成長が遅いとはいえ、直立した幹がまっすぐに伸びるシュロは、最長10mほどにまでなる植物です。気安く考えて地植えにしてしまうと、いずれ手に負えなくなることも。
「シュロ」を地植えにするスペースが確保できない方は、鉢植えで管理し、定期的に植え替えをしましょう。
鉢植えなら、根が張れるスペースが限られているので安心でしょう。植え替えの敵期は、暑さの和らいだ秋がおすすめですよ。
【植え替えで準備するもの】
・大きな鉢
・観葉植物用の土など(水はけのよい土)
・鉢底ネット
・軽石やゴロ土など
・グローブ
【植え替えの手順】
1. 大きな鉢底へ鉢底ネットをしき、軽石またはゴロ土を入れておく
2. 観葉植物用の土など、水はけのよい土を3分の1ほど入れる
3. シュロの根を傷つけないように、鉢から抜きだす
4. 古く硬い土を落とし、大きな鉢へ植え替える
5. 枯れた葉は取りのぞく。※中心の成長点は必ず残す
植え付け
「シュロ」を地植えにする際は、水はけのよい場所を選びましょう。湿った状態が長く続くと、根腐れをおこして枯れてしまいます。
ドライガーデンであれば他のドライ系植物と同じく水はけのよい土と一緒に腐葉土をすき込んであげましょう。
高低差をつけて複数の株を植え付けたシュロは、ひときわ存在感を放ちます。雰囲気のあるガーデンづくりを考えている方は、植え付け前にバランス調整をしてみてくださいね。
シュロの病害虫
強靱な植物の「シュロ」は、病害虫にも強い植物です。
ただし、風通しの悪い状態が長く続くと「ハダニ」が発生するでしょう。室内で管理する場合には、定期的に換気をしてくださいね。
また、ハダニは水が苦手なので、霧吹きで葉水を行うことが予防になります。それでも発生してしまった際には、シャワーの水で洗い流したり、殺虫剤を使ったりして駆除しましょう。
シュロの剪定・伐採
剪定時期は新芽の出る前の4月頃がお勧めです。普段からお手入をしていれば年1回程度で問題ありません。
普段のお手入れでは、古くなり枯れた葉を取りのぞく作業があります。垂れ下がる葉は、そのままにせず根元から取りのぞきます。中央の成長点がなくなると枯れてしまうので、注意しながら葉を除去しましょう。
ごわごわとした繊維が絡みあうシュロの剪定や伐採は、一筋縄ではいきません。
柔らかそうに見える幹は意外にも硬く、チェンソーや剪定道具の刃に繊維が絡みます。
樹高のある「シュロ」は、大がかりな剪定となるため、専門業者に依頼するのがよいかもしれませんね。
また、開花後の「シュロ」は、すぐに実をつける特徴があります。実をつけてしまうと、栄養分が奪われて成長がさらに遅くなってしまうでしょう。種を採取する予定がない方は、花穂が伸びてきたら早めに剪定してくださいね。
シュロの増やし方
「シュロ」は種から増やせる植物なので、ぜひチャレンジしてみましょう。
11~12月頃になると、黒く熟れた種ができるので採取します。
採取した種は涼しい場所で保管し、翌年の春先に種まきをしましょう。
シュロを使った道具
庭木や公園で目にしている「シュロ」ですが、日常生活の道具としても活躍しています。
ごわごわと幹に絡まる「シュロ」の繊維は、水に強くしなやか。その特性を活かし、たわしやホウキなど、身近な日用品へと生まれ変わっています。
ガーデニングなどで使用するシュロ縄も、じつは「シュロ」の繊維からできています。「いわれてみれば確かに!」という感じですよね。
「シュロ」の葉を使ったハエたたきや、かごやバスケットなど、使い道はさまざま。日本人の生活のかたわらに寄り添いながら、しっかりと根付いてきた植物といえます。
まとめ
暖かい南国のイメージがある「シュロ」は、寒冷地でも育つ丈夫な植物です。根付いてしまえば、ほとんど水やりの必要もなく手間がかかりません。
一年を通して、ドライガーデンで楽しめる植物を探している方にはおすすめです。
成長スピードはゆっくりとしていますが、その寿命は100年以上にもなります。記念樹としてご自宅のガーデンへ植樹し、成長を見守る暮らしも素敵ですよね。
また、「勝利」「不変の友情」という花言葉を持つシュロは、お祝いとしてプレゼントするのにもピッタリですよ。
2024年1月24日
執筆者:造園技能士 竜門 健太郎